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「患者さんですよう」
「水神淵を知つとんなさるだらう」
喜作の方でも、房一の来るのを認め、
「へゝえ、わしらは用意がえゝですからね、あんな蜜柑箱みたいなもんはすぐこはれるにきまつてるから、家を出るときこゝにつけて来たんでさあ」
「随分早いのね」
「えらい昔話が又ぶり返したんだな」
房一は叫んだ。犬は房一の顔を見上げ、二三間走り、後がへりをし、それから急に葉の落ちた灌木の中にとびこんで行つた。がさがさやつて、ずつと先の路に出た。きよとんとし、時々匂ひを嗅いだ。
「どうしませう、ほんとうに!すつかり落しておしまひになつたんですのね。――どうも、さつきから様子がちがふと思つていたんですが、道理で!――さうでしたわねえ、お髯がなくなりましたわねえ」
「さうですね。さつきからどうもさうらしいと思つていたんですが、失礼しました」
「いや、まあ。――後の分もありますよつて、黙つて預つといて下さい」
道平はゆつくりと首を動かして訊いた。
練吉が元の座へ帰つてゆくと、房一はぽつんと一人とり残された。来客達の大半とはすでに顔見知りだつたにかゝはらず、今夜の席では房一は唯一の新顔だつた。
「ジョン、降りろ」